【vol.031】 久米忠史の奨学金コラム [2014.03.31]
奨学金制度の問題点「入口と出口」の課題
金額ベースで見ると、日本の全奨学金の9割近くを日本学生支援機構が担っています。 日本学生支援機構の奨学金は御存じのように貸与型、つまり学生自身が背負う借金です。 日本の高等教育界は、学生が背負う奨学金という名の借金に支えられているといっても過言ではないでしょう。
借金である以上は、当然リスクが存在します。
クレサラ問題に取り組んでいた弁護士先生を中心に設立された「奨学金問題対策全国会議」という組織があり、その活動は今や全国各地に広がっています。
正直なところ、全国会議の設立当初は、その背景に政治色が垣間見えたり、極端な事例を挙げられることが多かったこともあり一線を引いて視ていましたが、 最近では冷静に奨学金問題の本質を指摘するとともに現実的な困難者への対応に注力されているようです。
僕自身はこれまでの活動を通して、奨学金問題には「入口」と「出口」という大きく2つの要素が関係していると考えています。
入口とは、借りる時ですね。
今、高校時代に申し込む予約採用の割合が年々増加しています。つまり18歳という未成年の段階で何百万円もの金銭貸借契約を結ぶことになっています。
予約採用の募集にあたっては、日本学生支援機構から各高校に丸投げされているのが実態なので、 担当教員による情報格差や制度周知に関する温度差などを垣間見ることができます。
100人以上が奨学金を申し込む高校などでは担当教員が事務作業に振り回されてしまい、 大切な奨学金のメリットとリスクを伝えることよりも申請手続きの指導に終始してしまっているケースも珍しくありません。
それらの結果を象徴する興味深いデータがあります。
日本学生支援機構の調査によると、奨学金を借りている学生の56%以上が「返済猶予制度の存在を知らなかった」と答えています。
さらに2010年度から始まった個人信用情報機関、いわゆるブラックリスト登録に至っては77.5%もの人たちが「あまり知らない」「知らない」と回答しているのです。
この数字をみると、奨学金を申し込む高校在学中、進学後の在学期間中に奨学金のリスクとその対策を周知徹底することで、滞納問題の改善を図ることは出来るはずです。
出口とは、卒業後の返済についてですね。
文科省によると2013年3月卒の大学生の正社員としての就職内定率は74.5%となっており、 実に大学生の4人に1人が「就職できない」「非正規雇用」という非常に厳しい状況に晒されています。
全学生に対する日本学生支援機構奨学金の利用率が4割近くなっている現在では、毎年、奨学金の返済に苦しむ人“奨学金難民”が産み出されていることは想像に難くありません。
そんななか、先に述べた個人信用情報機関への登録や返還猶予制度を半数以上の奨学生が理解していない、という状況を考えると、 奨学金の滞納者が再起できないほど苦しい事態に陥ってしまう可能性があります。
僕は日本学生支援機構の奨学金制度の最大の問題点が“硬直化した返済システム”にあると考えています。
まず、連続3ヶ月滞納すると個人信用情報機関(ブラックリスト)に登録されてしまいます。
また、延滞金にはペナルティー(26年度採用者からは5%、それ以前の採用者は10%)が課され、延滞元本も含めて一括返済しなければ、
返済猶予などの次のステップに進めない仕組みとなっています。
1,2カ月程度の滞納であれば大した金額ではないでしょうが、半年以上も滞納すると簡単に返せない金額に膨れ上がってしまいます。
さらに、滞納9ヵ月目以降からは法的措置の対象となり、現に年間1万件以上もの訴訟が機構から起こされています。
最終的に法的措置が取られても返済が免除されるわけではなく、その後の返済金は「訴訟費用」→「延滞金」→「元金」の順に充てられることになっています。
そのため、いくら返済しても元金が減らないという事態に遭遇している元滞納者が続出しているようです。
僕は貸与型奨学金自体を否定するつもりはありませんが、あまりにも硬直化し過ぎた現行の返済制度は早急に改善すべきだと考えています。
政府・財界を中心に90年代半ばからアメリカに倣った奨学金の金融事業化が進められてきました。
その結果、奨学金は誰もが借りることができるものになりましたが、ここに来てその問題点も浮き彫りになってきました。
やはり、奨学金が金融事業であってはならないと思います。
①個人信用情報機関への登録の廃止
②奨学金の無利子化
③延滞金の廃止
国民にこれまで以上の税負担を強いる給付型奨学金の創設よりも、この3つの方向に転換するだけでも奨学金に対する不安は大きく和らぐはずです。
日本は少子高齢化社会にまっしぐら1に進んでいます。
単純過ぎだと嗤われるかもしれませんが、“少子化=進学者の減少”を意味するので、これまでの返還金で将来の奨学金の財源を確保できる分岐点も見えてくるのではないでしょうか。
これからの高齢化社会を支えなければならない20代、30代の人たちが希望を持てる仕組み作りが大切です。
金融事業から本来の奨学事業への再転換が求められているのではないでしょうか。