2015年08月04日
奨学金の返済負担が社会問題となっています。
また、同時に地方の人口減少と首都圏への人口の一極集中が日本の大きな課題になっています。
そんな中、政府では“地方企業に就職した学生の奨学金の返済を免除する”という新たな施策に取り組み始めました。
まずは、奨学金の返済を免除する仕組みについて整理してみましょう。
■自治体と地元企業が奨学金返済支援基金を創設
「奨学金を活用した大学生等の地方定着の促進」と題された、新制度の枠組みは以下のようです。
【1】自治体と地元産業界で基金を創設
【2】国が基金の1/2を補助
【3】日本学生支援機構は第一種奨学金の「地方創生」優先枠を設定
【4】都道府県それぞれが100名を推薦する(全国計 4,700名)
【5】基金の要件を満たした奨学生の返済を肩代わり
対象者の要件は、地方自治体と地元産業界が話し合って決めることとなっていますが、「特定分野の学位や資格の取得」「地元の産業分野や振興に係る企業への就職」などが前提とされています。
ポイントは、国から1/2の助成があるとはいえ、自治体と地元産業界が対象者の要件を決めることだと思います。
これまでの地方振興といえば、安易な箱モノ作りが多く、結果的に多額の税金を無駄にしただけでなく、将来の若者にツケまで残しています。
今回は、箱モノではなく“人材というソフト”です。
しかも、自治体それぞれが、ある意味自由に対象要件を設けることになるので、要件内容と数年後の結果を見れば、自治体の本気度や能力が明らかになるとも言えます。
また、先の方針の中には、地方大学の活性化支援も重要課題として挙げられています。
■地方大学と地元企業との連携強化
独自の取り組みにより、他大学との差別化を実現している地方大学がありますが、地方の多くの大学は学生募集に苦戦しています。
そこで、今回の地方創生政策では、長期インターンシップや実践的な職業教育を単位認定するなど、地方大学と地元企業とのより積極的な関係強化が打ち出されています。
この施策の特徴は、それぞれ大学単独ではなく、地域の大学が全体のテーマとして取り組むことが求められている点でしょう。
さらに、県内就職率○%アップなど、具体的な数値目標をあげたうえで、効果検証も行うことになっています。
とは言いながらも、大阪府や愛知県などは、他県よりもアクセス、雇用力などの様々な面で優位性を持っています。
その一方で、多くの地方では、都会ではあたり前にある電車や地下鉄などの公共インフラでさえ十分整っていないという現状があります。
さらに、グローバリゼーションの流れのなかで、海外に拠点を移してしまった地方の優良企業も数多くあるでしょう。
そのため、今回の国の施策についても、効果を発揮する自治体と思うように進まない自治体に分かれると思います。
その点を問題視する声や、奨学金で若者を縛ることへの批判もあるようですが、まずは国が一歩踏み出したことを評価し、来年度からスタートする今回の施策の進展を見守っていきたいと思います。
久米忠史プロフィール
1968年生まれ 東京都在住
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間150回を超える。
公式サイト「奨学金なるほど!相談所」
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