2021年12月29日
2020年度から給付型奨学金&学費の減免(高等教育の修学支援新制度)が開始されましたが、高校現場や教育関係者の関心度合には温度差があるように感じています。
「うちの高校には対象者が少ないので、給付型奨学金は簡単に触れるだけで結構です」といった要望を受けることがありますが、給付型奨学金はホントにひとごとの制度なのでしょうか。
そのような思いから、文部科学省の「学校基本調査」と日本学生支援機構による「奨学金に関する情報提供」から、都道府県別の給付型奨学金の採用割合を推計してみました。
先にお断りしたいのが、給付型奨学金の採用率は2020年度に予約採用で申請した人の採用割合という点です。大学等への入学後に在学採用で申請し人も一定数いるはずなので実際の採用率は今回の数字よりも上振れしていると考えられます。
2021年3月高校卒者の給付型奨学金の採用率の全国平均は12.9%でした。10人中1.3人ということは、40人クラスでは5.2人いることになります。
私個人としては、少数派として切り捨ててよい割合と思いません。むしろ情報からこぼれ落ちている人はいないか、さらに周知が必要ではないか、と捉えるべき割合だと思います。
それでは、採用率の上位10位までの自治体を見てみましょう。
1位 沖縄県(35.9%)
2位 青森県(22.3%)
3位 宮崎県(20.3%)
4位 鹿児島県(19.9%)
5位 高知県(19.6%)
6位 愛媛県(19.4%)
7位 大阪府(19.2%)
8位 奈良県(19.1%)
9位 北海道(19.0%)
10位 長崎県(18.1%)
私の保護者向けの奨学金講演会が最も多いのが沖縄と青森です。その両県が給付型奨学金の採用率上位2県を占めたことに縁を感じます。
沖縄では子どもの貧困率が全国平均の2倍あり、特に母子世帯の貧困が大きな課題となっています。意外だったのが、青森以外の東北エリアです。
厚生労働省「令和2年 賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者の平均賃金は沖縄(25万2500円/42位)、山形(25万1900円/43位)、宮崎(24万8500円/44位)、秋田(24万6700円/45位)、岩手(24万5900円/46位)、青森(24万500円/47位)となっています。
宮城、福島以外の東北県は以前から平均年収が低くお金の問題が進学の大きな課題となっていながらも、給付型奨学金の採用率は山形(12.7%)、秋田(17.7%)、岩手(16.4%)と沖縄、青森よりもかなり低いのです。
特に山形は平均賃金が全国43位であるのに給付型奨学金の採用率は全国平均以下です。
山形は共働き率が全国トップクラスということが影響しているのだと思われますが、奨学金情報を早期により周知することでさらに採用率は上昇するのではないかと思っています。
続いて、採用率の低い自治体を見てみましょう。
1位 富山県(7.5%)
2位 愛知県(7.6%)
3位 神奈川県(7.9%)
4位 埼玉県(8.5%)
4位 千葉県(8.5%)
5位 東京都(8.6%)
6位 福井県(8.7%)
7位 静岡県(9.0%)
8位 岐阜県(9.2%)
9位 石川県(9.3%)
平均賃金が最も高い東京をはじめとする1都3県は誰もが予想できると思います。
また、総務省の「平成29年 就業構造基本調査」によると、夫婦とも働き率は1位・福井(60.0%)、2位・山形(57.9%)、3位・富山(57.1%)、4位・石川(56.1%)と共働き割合が給付型奨学金の採用率に影響していることが想像されます。
最後に全都道府県の採用率をご覧ください。
沖縄のように突出して採用割合の高い県は、先にふれたひとり親世帯の貧困問題など地域が抱える深刻な課題が透けて見えます。
行政が行いがちな対症療法ではなく、中学生の保護者や生徒に向けた早期の給付型奨学金情報や学歴別生涯賃金の違いなどの周知や若年結婚が抱えるリスクなどを繰り返し伝えることで、貧困の連鎖の根を断ち切ることに一歩ずつ近づけていく必要があると感じています。
また、給付型奨学金の採用割合が低い地域では、少数派の声なき声を聞き逃していないか、という聴診器の役割を高校現場の先生がたには担って頂きたいと思います。
奨学金アドバイザー 久米忠史
参考データ
久米忠史プロフィール
1968年生まれ 東京都在住
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間150回を超える。
公式サイト「奨学金なるほど!相談所」
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