2013年09月08日
奨学金の滞納問題を取り上げる記事をよく目にします。
金融事業化へシフトした日本学生支援機構の現行制度には問題は多くあり、特に硬直化した返済システムこそ第一に改善すべきだと常々思っており、そのように講演でも発言しています。
ただ、最近の記事には少し首を傾げてしまうものがあるように感じています。
2013年9月5日の東京新聞の記事より
**********************************************************************
奨学金で自己破産 就職難や非正規増影響…
千葉市内の男性(25)は高校卒業後、都内のアニメ専門学校に入学する際、日本学生支援機構を通じ、奨学金を借りた。共働きの両親の月収三十万円では、進学できなかったからだ。
一年半ほど通ったが、父親が親戚から借りた約二百万円の返済に奨学金を充てざるを得なくなり、学費がなくなって中退。利子を含めて借りた奨学金約三百万円が負債として残った。その後、警備会社でアルバイトしたが、月十数万円の手取りでは返済は進まなかった。
一〇年六月、コンビニ店のオーナーから「ゆくゆくは店長にするから」と店の仕事に誘われた。仕事は見つかったが、父親が男性名義で百万円以上の借金をしていたことが新たに分かり、借金は五百万円近くに膨らんだ。仕事もオーナーが一二年一月に突然店を閉めたため失った。借金返済を相談した司法書士から「ほかの借金だけなら何とかなるが、奨学金も合わせると破産しかない」と言われ、自己破産した。
「奨学金に人生を狂わされた。借りなければ、もっと良い人生が歩めたかな…」と疑問を抱く男性。父親も亡くなり、現在は生活保護を受けながら仕事を探す。だが、高卒で車の運転免許もなく、仕事はアルバイトぐらいしか見つからないという。
**********************************************************************
この男性は「奨学金に人生を狂わされた」と嘆いていますが、僕はどうしても違和感を持ってしまいます。
・父親が親戚から借りた200万円の返済に奨学金を充てたために中退せざるを得なかった。
・その他にも父親が男性名義で借金をしていたことが判明
・店長候補としてコンビニに誘われたが、店舗が閉店してしまった
・高卒で車の免許もないからアルバイトぐらいしか見つからない
男性は現在大変苦しい状況に陥っているので、本人を責めるつもりはありませんが、彼の置かれた状況の原因が奨学金であるかのような記事の書き方は少し強引過ぎるように思います。
まず、第一に男性が苦しくなった根本原因は「家族問題」にあること。
第二に高卒で車の免許がないからアルバイトしか見つからないと考えていること。
厳しいようですが、この男性は他人や社会のせいにし過ぎではないでしょうか。
車の免許がなくても高卒でキチンと働いている若者はたくさんいます。
僕がよく講演に呼ばれる東北地区の秋田県や青森県は、経済的問題で進学できずに高卒で就職する比率が高い県です。
また、もし男性がアニメの専門学校を卒業できていたら、奨学金の返済に苦しまずに希望の人生を切り開くことができたのでしょうか?
誰もが簡単に想像できますが、漫画家や声優、イラストレーターという職業は「安定」とは正反対の立場にあり、新卒採用云々の業界ではありません。
僕は個別相談でエンタメ系の学校を志望する保護者や生徒には、将来の不安定さや必ずしも進学しなくても良いことを伝えています。
どうしても進学したいならば、「まずは就職して社会経験を積みながらお金を貯めて進学する方法があるのでは」「その社会経験はきっと君のプラスになるよ」とも話します。
確かに若者の雇用問題は深刻です。
しかし、だからこそ安易な進路選択は禁物だと常々思っています。
この男性の問題の本質は、奨学金ではなく、親族を含む家族関係、将来設計の甘さにこそあるのではないかと思います。
久米忠史プロフィール
1968年生まれ 東京都在住
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間150回を超える。
公式サイト「奨学金なるほど!相談所」
最新記事
月間アーカイブ
コメント/トラックバック (1件)
二度目のコメントをさせて頂きます。
自分も、ここ最近の奨学金問題のモデルケースに取り上げられるケースが
あまりにも世間の賛同を得られないであろう、率直な言葉で言えば「甘い考えで奨学金を借りた、もしくは返済を甘く考えていた」故に困窮しているケースが多いことに違和感を覚えています。
こんな甘い考えで奨学金は利用されているのですよ、さぁバッシングしましょう、とミスリードを意図としているのではないかとさえ思えます。
投稿日時: 2013.09.9@14:06 投稿者: 学生課職員
コメントする