奨学金なるほど!相談所

久米忠史の奨学金ブログ

2013年10月17日

高校生向け奨学金の滞納問題の意味するところ

日本学生支援機構の奨学金は、専門学校以上の学生を対象にしています。

一方、以前は日本育英会が行なっていた高校生向けの奨学金は、現在では各都道府県が“窓口”となっています。

窓口という意味は、予算は国が負担するが、運営は各自治体で行いなさいということです。実は、この高校生向けの奨学金への国の支援は期限が設けられており、2020年度からは返済金などをもとにそれぞれの自治体独自で運営しなくてはならないことになっています。

最近、その自治体を窓口とする高校生向けの奨学金の滞納問題が、各地の地元新聞で取り上げられる機会が増えてきました。

10月14日の愛媛新聞では、愛媛県の高校生向けの奨学金の滞納額が前年比37%増の1億1225万円まで上昇し、初めて1億円を突破したことが報じられました。

高校生向けの奨学金の月々の返済額は5000円~7000円程度です。

この金額だけを捉えると、「わざと踏み倒そうとしている人が多いのでは?」と勘繰る方もいるのではないでしょうか。

僕はもう少し複雑な背景があるように思います。

高校生向けの奨学金は、大学在学中は返済が猶予されるので、大学卒業後から返済が始まります。

高校生の時代に奨学金を借りていたということは、おそらくその大多数は、大学等への進学時にも日本学生支援機構奨学金を借りていると思われます。

それらの人は、大学卒業後から「日本学生支援機構」と「地方自治体の高校生向け」の2つの奨学金を同時に返済していくことになります。

当ブログで何度も書いていますが、日本学生支援機構では数年前から回収強化へシフトしています。それに比べて、大阪府などの一部を除くと、返済者の事情を考慮するなどして自治体の回収姿勢は緩やかなケースが多いように思います。

したがって、高校生向けの奨学金滞納者のなかには、回収の厳しい日本学生支援機構の返済を優先して、自治体奨学金の返済を後回しにする。あるいは、日本学生支援機構へは返済猶予申請したが、自治体への相談を怠ってしまった、という人が相当数いるのではないかと想像しています。

もうひとつ、高校生向けの奨学金の隠された問題点として、学生自身が借りていたことを知らないというケースがあるというこもを指摘しておきます。

借主は子どもであっても、高校生の場合は保護者が手続きをすることがほとんどでしょう。

保護者が子ども名義で奨学金を借りながら、それを生活費に廻してしまう。悲しいことですが、現実にそのような事例に時々遭遇します。

以前相談に来られた30代の主婦は、母親が亡くなった後、身辺整理をしている過程で高校時代の奨学金を滞納し続けている事実を知ったそうです。

僕は昨今の奨学金問題を借り手の自己責任論に片づけるつもりはありませんし、制度側へ全ての責任を押し付けるつもりもありません。

日本学生支援機構の回収方法には問題があることは事実ですし、一方、借り手の側にも進学費用負担を抑える選択肢はいくつもあったはずです。

現在の奨学金問題の半分は「若者の雇用問題」だと思います。

ただ、その雇用問題こそ簡単に解決できない問題ですし、仮に改善されたとしても相当時間が必要でしょう。

だからこそ、給付制奨学金の創設などの抜本議論の前に、滞納者の苦しみ、痛みを和らげる対症療法的な取り組みが急務だと思います。

キチンと奨学金を返済している人からは不公平と言われるかもしれませんが、法的処置に移る前の段階で、滞納者に対しては延滞金の撤廃や滞納金の分割返済に応じるなど、柔軟な返済システムへと再転換すべきです。

例え責任の一端が借り手側にあったとしても、滞納者を追い込むことには賛成しません。

実質、無利子・低利の学生ローンである日本の奨学金ですが、“学びを奨めるお金”と名付けている以上は、一般ローンとは別物であるべきです。

まして、この不安定な若者の雇用状況を作り出した責任は、我々中年世代以上の経営者、政治家、教育関係者にあると思っています。

まぁ、我が子だけを溺愛する視野狭窄の保護者の責任も重いと思いますが。

「奨学金の返済を苦にして自殺・・・」そんな悲しい事態が起こらないことを願っています。

カテゴリ:久米忠史コラム|日時:2013年10月17日16:44|コメント(2)

コメント/トラックバック (2件)

先生のブログ拝見しました…その通りだと思います。現在私は母子家庭です。高2の男の子が一人います。塾に通わす余裕もなく自力で勉強し、成績は公立高校で10番以内です。大学に行きたいと思っています。行かせたやりたいと思います。母子家庭や年齢で働く場所も職種も限られ、日本では、弱い者は生きていけないようになっています。自殺者のような犠牲者がたくさんでないと弱い者は守ってもらえないのでしょう・・・。でも、親が死に物狂いでお金を貯めて行かせた大学も、就職にはほとほと役に立たず、夢を見、未来ある若者たちの思いをことごとく絶望の淵に叩き込むのでしょうね。所詮はすべてが金儲けの餌食にしかすぎず、設けるところはいつも限られていて、犠牲になるのは国民の8割。もう少し、ましな国になればいいのにと思います。

投稿日時: 2013.10.24@21:51   投稿者: 秋山 加代子

秋山さん
大変苦しい思いをされていると思いますが、悲観しないでください。
厳しい状況でも自力で頑張る息子さんを世に産みだしたのは秋山さんです!!
これは母である秋山さん以外の誰にも出来なかったことです!!
息子さんに誇りを持って、彼が弱者の気持ちが分かる力強い人間に育つように応援していきましょう。

投稿日時: 2013.10.31@19:04   投稿者: kume

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久米忠史プロフィール

1968年生まれ 東京都在住
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間150回を超える。

公式サイト「奨学金なるほど!相談所」

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