奨学金なるほど!相談所

久米忠史の奨学金ブログ

2013年11月19日

的を得た産経新聞の奨学金問題報道

昨日の産経新聞の記事が注目されかなりのアクセス数となっているようです。
少し長いですが、ほぼそのままの記事を紹介します。

2013年11月18日 産経新聞より
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奨学金訴訟 8年で106倍 専門家「強引な回収、本末転倒」

 経済的に苦しい学生を支援する独立行政法人「日本学生支援機構」(旧日本育英会)から借りた奨学金の返還が滞り、利用者が訴訟を起こされるケースが激増、昨年度までの8年間で100倍に増えたことが、同機構への取材でわかった。背景には、不景気などにより貸与額が増加する一方で、非正規雇用や失業など卒業後の不安定な就労から返済が困難となっている情勢がある。機構側も対策を講じているが、専門家からは「学生を支援するはずが、強引に返済させるのは本末転倒では…」との指摘も出ている。

 機構によると、訴訟への移行件数は平成16年度で58件だったが、21年度は4233件に急増。24年度は6193件と、16年度の実に106倍に達した。

~中略~

 “取り立て”る側の事情もある。機構の関係者は「国の行政改革を通じ、奨学金は金融事業と位置づけられた。民間金融機関からの借入金を返すためにも、回収を強化する必要がある」と説明する。

 一方、利用者側の事情は厳しい。経済的理由などで返済が困難になった場合、支払い猶予を申請できるが、機構によると、卒業後の「経済困難・失業中」による猶予は23年度で9万2157件。生活保護受給による猶予の3843件を合わせると、同年度の猶予件数(10万8362件)の約9割を占めた。

~中略~

 奨学金問題に詳しい大阪弁護士会の山田治彦弁護士は、機構側の姿勢を「卒業後も困窮する利用者に対し訴訟を起こしてでも取り立てようとするのは、貧困ビジネスのようでおかしい」と批判。一方、利用者側についても「奨学金がローンだという認識が薄い。返済が行き詰まる前に相談するなど、早期に手を打つべきだ」と指摘する。
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今回の記事は奨学金の問題点を見事に整理して指摘した内容だと感じました。

もう少し僕なりに噛み砕いてポイントを整理したいと思います。

(1)奨学金回収業務の強化
記事に書かれている通り、数年前から、日本学生支援機構では返還金の早期強化に取り組んでいます。

滞納早期での督促や長期滞納者への法的措置など、通常の金融機関と同じ姿勢であると考えてもいいでしょう。

実際、機構の関係者が答えているように、行政改革を通して、奨学金が「金融事業」と位置付けられました。

しかも、一般のローンとは異なり、与信審査が全く行われない形での貸付けなので、貸し倒れのリスクは一般のローンよりもはるかに大きいと言えます。

金融事業としてはあたり前のことをしているのに批判が大きいのは、やはり国民の意識の中に“奨学金が金融事業と同じでは困る”という気持ちが強いからだと思います。

(2)返還猶予申請者の増加
奨学金滞納問題の最大の要因は雇用問題だと考えています。

大学新卒者の4人に1人が、就職できない、または非正規雇用というのが日本の現実。

特に、就職氷河期に遭遇した30代の人たちがワーキングプア層に固定化されてしまうと、深刻な事態に陥ってしまいます。

日本学生支援機構の奨学金では、3種類の返還猶予制度が設けられていますが、それぞれに改善すべき課題が残されています。

(3)奨学金利用者側の意識
「借りる前にキチンと返済計画を意識する」 金融リテラシーの観点から見ると初歩的なことでしょうが、こと奨学金に関しては現状ではかなり難しいと思います。

なぜなら、日本学生支援機構の奨学金利用者の7割が、高校3年生の春の時点で申し込んでいるからです。

みなさんが高校生の頃、社会人として働いた時の給与などを具体的にイメージできたでしょうか。

少なくとも僕には全く想像できなかったし、父親がいくら給料を稼いでいるのかも知りませんでした。

少子化の現在では、多くの大学や専門学校では学生募集に必死になって取り組んでいます。

「〇〇大学は就職率100%」とか「△△専門学校は国家資格100%合格」など、俄かには信じがたい数字が子どもたちの周りには溢れかえっているのです。

それらの魅力的な言葉を信じて進学した結果、(2)の厳しい状態に陥ってしまう学生は多くいるでしょう。

<僕なりのまとめ>

「日本学生支援機構の回収姿勢」
「若者の厳しい雇用環境」
「高校時代の奨学金申し込みと安易な進路選択」

奨学金問題は、これらの3つの要素が絡み合った、いわゆるミスマッチによって生み出されているのではないかと考えています。

したがって、それぞれひとつずつを深く批判するのではなく、3つの要素を同時に検証したうえで、大枠の方向性を打ち出すべきです。

そのうえで、それぞれ個別の課題について掘り下げて検討することで、具体的な改善策が見えてくるのではないかと思っています。

最後に。
大手メディアの関係者には、日本育英会時代に奨学金の回収方法の甘さを批判し、回収強化の必要性を訴えていた過去の事実を忘れないで頂きたいと思います(笑)。

カテゴリ:久米忠史コラム|日時:2013年11月19日14:15|コメント(1)

コメント/トラックバック (1件)

自分も、昨日このニュースをプリントアウトし、折に触れ学生に提示し返還の重要性、返還できない際の各種手続きの重要性を説明するようにしています。
本来は本人の自発的な自覚の元に返還がされるべきだとは思っていますが、それが難しい学生も多い現状、借金である自覚が薄い若者には訴訟されるからしっかり返せ、という形のほうが悲しいことながら、響きやすいですね…

投稿日時: 2013.11.20@09:17   投稿者: 学生課職員

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久米忠史プロフィール

1968年生まれ 東京都在住
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間150回を超える。

公式サイト「奨学金なるほど!相談所」

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