2013年11月25日
このところの奨学金問題に関する報道記事には疑問に感じるものがいくつかありました。
しかし、発言する側の立場や思想、信条など、それぞれが抱える事情があるのであろう、と思い敢えて反論してきませんでした。
このブログでも何度も書いていますが、奨学金問題の最大要因は若者の雇用問題にあると思っています。
現に、日本育英会に初めて有利子奨学金が導入された1984年度の返済利率は3%、増額貸与月額に対しては7.1%と現在よりははるかに高かったにも関わらず、特に問題にはなりませんでした。
それは、それだけ大学生の就職環境が今よりもはるかに良かったからでしょう。
日本学生支援機構の奨学金が実質、無利子または低利の学生ローンである以上、メリットとリスクが存在します。
それらのポイントと注意点を伝えることが大切だと考えて講演活動を続けていますが、最近は奨学金に過剰に不安感を持つ保護者が増えていることを実感しています。
講演後のアンケートなどでも、その原因が最近のメディア報道にあることは明らかですが、11月20日に配信された週刊金曜日の記事を見て、さすがにこれは行き過ぎた酷い表現だと危機感を持ったので、発言することにしました。
週刊金曜日ニュース 11月20日
日本学生支援機構の利息収入は232億円――奨学金はサラ金よりも悪質
全国奨学金対策会議共同代表の大内さんは、日本学生支援機構の奨学金を「貧困ビジネス」と位置づけ、各地でシンポジウムを開くなど積極的に活動されています。
貧困ビジネスと糾弾される根拠は、債権回収会社(サービサー)への委託や民間金融機関への返済金還流にあるのだと想像します。
僕個人としても、サービサーへの回収委託は厳しすぎる施策だと思っていますが、民間事業者は収益なくしては活動することができません。
「貧困ビジネス」という言葉がひとり歩きしてしまうと、反社会勢力が生活保護者を喰いものにするケースのように、かなりダーティーなイメージを植えつけかねません。
むしろ、奨学金のお陰で大学に進学することができた多くの奨学生を貶め、却って反発を招く結果となってしまう可能性があるのではないかと心配してしまいます。
また、大内さんは有利子奨学金の返済利率を3%と発言していますが、それは上限利率であって、最新利率が0.89%(固定)、0.30(変動)であり、少なくともこの20年の間に3%に達したことがない事実も、専門家であれば当然承知しているはずです。
まあ、これくらいは何度も目にした内容なので目くじらを立てようとは思いませんが、看過出来ないのが、聖学院大学の柴田教授の「サラ金よりも悪質」とのコメントです。
サラ金と言えば、暴力団と結託した強引な取り立てや暴利に晒された結果、夜逃げや一家心中など数多くの悲劇、社会問題を引き起こした元凶であった過去を忘れることは出来ません。
その後、消費者保護の観点から利息制限法が成立し、その上限金利は15%と大幅に制限されることになりましたが、それでも柴田教授が批判する奨学金の5倍もの高利です。
正直、どこに「サラ金以上の悪質さ」があるのかが理解できません。
日本学生支援機構の現行制度には、改善すべき点があることは事実であり、特に硬直化した返済方法に問題が大きいと僕個人も認識しています。
現実に年間1万件もの訴訟が機構から起こされており、多くの奨学生が苦しみ、不安を抱えているでしょう。その事実に、僕も心を痛めるひとりです。
しかし、だからと言って、「サラ金以上に悪質」などと安易に発言して良いとは到底思えないのです。むしろ、今回のコメントには浅薄な悪意すら感じます。
聖学院大学で学ぶ学生にも日本学生支援機構の奨学生は数多くいるでしょう。
柴田さんの言葉を借りると、彼らはサラ金以上に悪質なお金を借りて聖学院大学に入学し、サラ金以上に悪質な彼らの借金の一部を柴田さんは給与として受け取っていることになります。
繰り返しますが、奨学金返済問題の最大要因は雇用問題にあると考えています。
「奨学金を借りて大学を卒業」→「就職できない」→「奨学金の返済に苦しむ」
このシンプルな三段法が奨学金問題を生み出している構図です。
聖学院大学のHPに掲載されているデータを見ると、2012年度の就職希望者に対する就職率は63.5%と、全国平均と比べて30ポイントも低いことが分かります。
しかもこの数字の中には非正規雇用での就職者も含まれているものと思われます。
聖学院大学の就職できなかった40%近くもの卒業生は一体どうしているのか?
奨学金を借りて卒業した人は大丈夫なのだろうか?
不思議なことに、聖学院大学のブログには、週刊誌の企画で「面倒見の良い大学」「就職に力を入れている大学」にランクインした記事が掲載されています。
「面倒見が良い大学」全国16位、聖学院大学11年連続ランクイン!
僕だけでなく、聖学院大学のこのPR記事と現実の数字との間にギャップを感じる人は多いはずです。
毎年多くの大卒無業者を生み出している大学の先生方に全く責任は無いのでしょうか。
制度側、専門家、利用者、関係者がそれぞれの立場から、改善を目指して前向きに議論を深めていくことには大賛成です。
一方、己の責任を棚上げにして一方的に他者を罵る人には共感できませんし、議論の輪が広がっていく可能性も低いだろうと思っています。
久米忠史プロフィール
1968年生まれ 東京都在住
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間150回を超える。
公式サイト「奨学金なるほど!相談所」
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