奨学金なるほど!相談所

久米忠史の奨学金ブログ

2021年02月01日

「新卒社員の2割が奨学金の返済義務知らず」見出しへの違和感

新聞、雑誌、書籍、紙媒体の凋落が続くいっぽう、著しい成長が続くネットメディア。

先日、朝日・毎日・産経の新聞3紙がニュース動画サイトを共同運営することが報じられました。新聞、雑誌等オールドメディアもネット連動が欠かせません。

しかしながら、ネットユーザーの目を惹くことに意識を奪われてしまい、過激な見出しや本文とかけ離れた見出しが目につくようになっています。

売れなければ事業が継続できないという事情は誰もがわかりますが、だからと言って影響力のあるメディアがミスリードして良いわけはありません。特にSNSは拡散力が強いのでより注意が必要です。

哀れ、新卒社員の末路…2割が「奨学金返済義務」を知らず 幻冬舎GOLD ONLINE(2021年1月31日)

ヤフーニュースにも転載されたこの見出しを目にすれば、奨学金を借りて卒業した新入社員の2割が返済義務を知らない、と捉えるはずです。しかも「末路」という表現には恐怖感すら覚えます。

見出しだけ読んだ人になかには「若い世代は意識が低い」「奨学金制度は酷い」といった感想をもつ人がいるはずです。

今回の見出しは明らかにミスリードにつながりかねません。コメントの切り取りや言葉やイメージのひとり歩きが非常に怖い・・・

国の奨学金事業を担う日本学生支援機構では様々な調査を毎年行っています。その中のひとつに「奨学金の返還者に関する属性調査」というものがあり、今回の記事はその中の一部を切り取ったものです。

まず大前提を整理しましょう。今回の結果は、奨学金の無延滞者9674人(回答者2388人)、延滞者19658人(回答者3023人)に対して行ったアンケートを基にしています。

結論を述べると、見出しの「返済義務を知ったタイミング」に関しては、奨学金の全返済者ではなく「延滞者」に限った割合なのです。

「平成30年度奨学金の返還者に関する属性調査結果」の概要版から、当該箇所の実際のグラフを見てみましょう。

ひと目でわかりますが、「貸与型奨学金の返済義務」については、無延滞者の97.4%、延滞者の77.4%が返済開始前には「返還義務があること」を理解しています。

もうひと言加えると、2017年度末時点での総返済者数425万9千人に対する3ヵ月以上の延滞者数は15万7千人。その割合は3.7%です。

15万7千人は大変な人数なのでパーセンテージだけで語ってはならないことは承十分に承知していますが、96.3%もの人たちは決して軽くはない奨学金の返済を真面目に行っているというのが日本の奨学生の実情です。

若者の貧困、奨学金問題を煽りたいという下心も想像できますが、新入社員の2割が基礎知識を得ていないかのような見出し、「哀れ」という表現に、オジサン的な上から目線を感じ残念な思いです。

今回の見出しは、せめて「奨学金滞納者の2割が・・・」としても、十分に読者を惹きつけられたのではないでしょうか。

コロナの影響で奨学金を必要とする家庭の増加が予想されます。奨学金問題は、奨学生本人の「意識」と大学の「質」、卒業後の「雇用」が大きく関わってきます。そのため、ひとつだけを切り取って議論しても解決しません。

話題作りのために奨学金の一部を切り取るのではなく、メディア関係者には関連する要素について冷静に議論するための土台作りを担ってほしいと思います。

奨学金アドバイザー 久米忠史

カテゴリ:久米忠史コラム|タグ:,|日時:2021年02月01日15:23|コメント(0)

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久米忠史プロフィール

1968年生まれ 東京都在住
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間150回を超える。

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