奨学金なるほど!相談所

久米忠史の奨学金ブログ

2021年02月06日

日本学生支援機構・奨学金の保証人への過払い訴訟に注目(札幌地裁)

奨学金に関する非常に気になる記事を目にしました。

奨学金過払い訴訟結審 判決は5月13日 札幌地裁(北海道新聞電子版 2021/2/4)

日本学生支援機構の奨学金の保証人となった原告2名が、半額しか返済責任がないにも関わらず、全額返済を求めたことが違法だとして日本学生支援機構を訴えた裁判が結審し、判決が5月13日に言い渡されるという記事です。

日本学生支援機構は全面的に争う姿勢のようです。というよりも最後まで争わざる得ないでしょう。かりに違法と認める判決が出たり、和解などとなれば同様の訴訟が全国に広がることが必至です。

日本学生支援機構では、親が連帯保証し、親族が保証する「人的保証」と保証料を支払う形の「機関保証」の2つの方式があります。

2019年度の採用者では46%の学生が人的保証を選択しています。

2018年に朝日新聞が報じた2本の記事が反響を呼びました。

奨学金破産、過去5年で1万5千人 親子連鎖広がる(2018年2月)

奨学金、保証人の義務「半額」なのに…説明せず全額請求(2018年11月)

初めの記事は、人的保証により奨学生本人だけでなく、親・親戚も巻き込んだ連鎖破産を報じたものです。次の記事がまさに今回の訴訟のきっかけになった報道でしょう。

連帯保証人は債務当事者と同等の返済義務を負います。民法では常識のようですが、保証人には「分別の利益(ぶんべつのりえき)」があり、主張すれば返済義務が2分の1になるということです。

日本学生支援機構は、分別の利益を保証人には伝えずに全額請求し、主張した人には半額請求を行ってきたとのこと。

貸し手側からすれば、自分が損をする分別の利益をわざわざ伝えることはしないという論理でしょうが、日本学生支援機構が公的機関であることの道義的責任を問う声が法律の専門家から上がりました。

これらの報道を受け、日本学生支援機構奨学金の案内書でも記載内容に変化が見られました。

貸与型奨学金案内書の人的保証に関する箇所の2018年度版と2019年度版の違いを見てください。

日本学生支援機構案内書「人的保証に関する箇所・2018年版と2019年版の違い」

赤線で囲んだ部分です。2019年度版からは連帯保証人と保証人に関して2行が追加され、保証人には「分別の利益」の権利があることが記載されています。

しかし、個人的には日本学生支援機構にもう一歩踏み込んでもらいたかったと思います。というのも「分別の利益」の権利が何を意味するかについてはひと言も触れられていない、という点が気になるからです。

私自身がすぐに連絡できる10人ほどの親族に「分別の利益」の意味を質問しても一人も答えられないでしょう。

「分別の利益」という権利を知っている人こそが珍しいというのが実情ではないでしょうか。

また、これは利用者自身の姿勢となりますが、奨学金の案内書を奨学生となる学生本人と保護者が果たしてどれだけキチンと読み込んでいるのか?

恥ずかしい話、奨学金アドバイザーとして17年目に入りますが、まだまだ不安を感じます。

奨学金申請の手続きに目と意識を奪われ、大切なリスクとリスク対策を親子で理解している家庭がどれだけあるのか?

しかも、奨学金の案内書は学生本人に配られるので、保証人が日本学生支援機構奨学金の案内書を目にする可能性はかなり低いと思います。

私が講演でお会いするのは受験生の子をもつ保護者です。講演で意識して伝えていることが、奨学金問題とは、いま目の前の進学費用の対策だけでなく、こどもが大学を卒業してから顕在化するということです。

奨学金の保証人による札幌地裁の訴訟の結果は、今後の日本の奨学金制度の在り方に一石を投じる可能性が高いと思います。

事業資金融資でも教育ローンでも連帯保証人を求める契約方法が少なくなっています。

まして保証人まで求める奨学金の契約は前近代的手法です。今後は人的保証を廃止し機関保証への一本化の検討が進むと思います。

機関保証一本化の検討に際しては、自ら敢えて自己破産するモラルハザードを避ける意味でも、学生受け入れ側の大学・短大・専門学校にも教育責任と同時に返済責任を問う議論を行って欲しいと思います。

カテゴリ:未分類|タグ:|日時:2021年02月06日20:07|コメント(0)

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久米忠史プロフィール

1968年生まれ 東京都在住
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間150回を超える。

公式サイト「奨学金なるほど!相談所」

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