【vol.004】 久米忠史の奨学金コラム [2010.09.15]
奨学金の滞納は誰の責任?
以前から危惧されていたことですが、先日、新聞報道で日本学生支援機構の奨学金返還額の20%が滞納となっているという記事を見ました。 そのため、機構では回収のための法的措置を強化するとともに、今後、訴訟件数は増えていくだろうとコメントしています。
一般の方がこの記事を見ると、恐らく次の2つのパターンの人をイメージされるのではないでしょうか。
「長引く不況の影響で、返したくても返せない人が増えているのだろう」
「そもそも返すつもりなどなく、踏み倒してやろうという若者が増えたのだろう」
どちらとも、"当たらずとも遠からず"であるかも知れませんが、奨学金の返還金滞納問題の本質は別のところにあるのではないかと思っています。
日本学生支援機構奨学金は、"貸与終了後、6ヶ月後から返還"が始まります。 つまり、卒業しようが中退しようが、学生生活を終えた時点からすぐに返還が始まってしまうのです。
冒頭の滞納額20%の中に、専門学校や大学の中退者の割合を知る術はありませんが、少なからず存在しているのではないかと疑っています。
また、日本学生支援機構奨学金の利息は上限3%以内と決められていますが、滞納した場合は10%の延滞利息が加算されてしまうのです。 これは返還猶予申請することで最大5年間はクリアできることになっていますが、その手続を周知徹底していなかった機構の姿勢も批判されています。
"借りたものは返す"。これはあたり前のことです。 そういう意味では、一番責任が重いのは"本人"であることは間違いありません。
しかし、借りた学生本人だけの責任でしょうか。
そのことにどうしても、僕は納得できないのです。
学生を受け入れた(或いは積極的にそのような学生を入学させた)大学や専門学校、そして実質的に、誰にでも貸し付けるような制度に改悪した文部科学省・・・。 彼らの責任も決して少なくないはずです。
日本学生支援機構は、「返還金滞納額の多い大学や専門学校の校名を公開」することも検討しているようです。
その方向性自体は支持しますが、より突っ込んで、延滞利息分を在籍していた大学や専門学校に課するなどのペナルティを、もっと強化すべきだと個人的には思います。 それと同時に、現行の文部科学省の大学に対する補助金分配システムを見直し、学費をもっと安くする仕組みを作ることに注力することが重要であるとも思います。
子どもが進学を控える保護者の悲痛な声を毎月聞いています。
多くの家庭で子どもの進学のために、色んなものを切り詰めやり繰りしているのが現実です。
エコカー減税やエコポイントなど、政府は様々な景気浮揚策を掲げていますが、学費が安くなるだけでいくらか消費も活発になるのではないかと、個人的に思うほどです。
高校卒業後、半分以上の学生が大学に進学する日本は、アメリカに次ぐ高学歴大国です。
堤未果さんがレポートしたアメリカの現実。(貧困大国アメリカⅡ:岩波新書/720円)
アメリカの社会構造の歪みがよく分かる本ですが、進学事情については、悲しいことに、アメリカが失敗した道を日本が進んでいるような気がしてなりません。
次回は、日本学生支援機構が導入した「機関保証制度」が、堤さんが憂いている「アメリカの教育ローン地獄」につながる危険性があるということを述べたいと思います。