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久米忠史のコラム

久米忠史のコラム

【vol.023】 久米忠史の奨学金コラム [2012.12.10]

[衆議院選挙]各党の「奨学金・教育費」マニフェストにだまされるな!

人気のニュースサイト「BLOGOS」に、衆院選の各党の主要マニフェストが紹介されています。その中に「奨学金・教育費」の項目があったので、さっそく各党のHPからマニフェストをダウンロードしてじっくりと読み比べてみました。

高等教育の「奨学金・教育費」に関してマニフェストを掲げている政党とその内容

自由民主党 大学における給付型奨学金の創設に取り組みます。
民主党 大学などの授業料減免や奨学金をさらに拡充する。
公明党 大学生、高校生のための給付型奨学金制度を創設します。 また、無利子奨学金や返還免除制度など奨学金制度の拡充を図ります。
日本共産党 ●高校、大学等の無償化を段階的にすすめます
今年政府は、国際人権規約の高等教育等の無償化条項を承認しました。 日本共産党が要求し続けてきたものです。私学も含め高校、大学等の無償化を段階的にすすめます。
●給付制奨学金を創設します
OECD 加盟国34 カ国で給付制奨学金がないのは、日本と大学授業料が無料のアイスランドだけです。
社会民主党 ●高等教育(大学、短期大学、大学院等)の漸進的な無償化を定めている国際人権規約(社会権13条)の理念にそって、将来的な無償化をめざし負担の軽減に努めます。
●教育の機会均等を保障するため奨学金・育英制度を充実させます。無利子奨学金の拡充をはかるとともに、選考基準については経済的条件のみとする改善も行ないます。 返還義務のない給費奨学金を創設します。 日本学生支援機構の奨学金事業の運営を見直します。
日本維新の会 格差を世代間で固定化させないために、世界最高水準の教育を限りなく無償で提供する
国民新党 ●奨学金制度の拡充
所得格差が教育格差にならないように、意欲があれば誰でもが大学、短大、専門学校等への就学が可能となる奨学金制度を創設します。すべての人にチャンスを与えるものです。

日本未来の党、新党改革、新党大地、新党日本では、奨学金に関する公約は見当たりません。

「無利子奨学金制度の拡充」
「給付制奨学金制度の創設」
「学費・返済の減免」
「学費の無償化」

これらの言葉が公約のキーワードとなっていますが、正直なところ、奨学金問題の本質に気づいているのは、公明党、みんなの党、日本共産党、社会民主党だけのようです。
奨学金制度の何処に問題があるかと言うと、その硬直化した返済システムと無常で強引な回収方法にあります。

経済が右肩上がりの時代ならまだしも、デフレ不況が長引く日本で、家の次に高い買い物と言われる大学へ奨学金を借りて進学し、その返済に苦しむ若者が増えているのです。

実は、国民にはあまり知られていないのですが、自民党政権時代から民主党が引き継ぎ推し進めている「奨学金の拡充」とは、学生本人への貸付枠の拡大政策です。簡単にいうと、奨学金の上限利息の撤廃したうえで貸付枠を拡大して9兆円規模の学生ローン市場を作ろうと言うものです。

現政権の藤村官房長官のホームページでは、「藤村の教育論」のコーナーで「新しい奨学金制度」と題して、学生への貸し付け枠拡大構想を堂々と論じています。

政治家が如何に国民の気持ちと乖離ているかということを感じることができますね。

全国の特定郵便局を票田とする国民新党でも、教育ローンも学生本人に貸し付け出来るように仕組みを変え、その窓口の柱として郵便局を据えるという制度を構想しています。
「親の負担ゼロ・新たな奨学金制度」と題し、大臣経験もある衆議院議員の名前で作成された国民新党の制度案を今年の8月に入手しましたが、子どもたちに奨学金と教育ローンを貸し付けることで、親の可処分所得が2兆2千億円増えると自信満々に謳っています。

言うまでもありませんが、これは赤字国債と同様に、安易に借金を次の世代に付け回すだけの愚策に見えますし、特に若者の雇用問題が不安定な現在では、看過できないものです。

つまり、自民党、民主党、国民新党がいう「奨学金制度の拡充」とは、学生をさらに借金漬けにする「奨学ローンの拡大」のことを意味していると考えていいでしょう。

最近では、ようやくメディアでも奨学金の返済問題がクローズアップされるようになりました。大学生の初任給が20万円割れし、女性の2人に1人が非正規雇用となっている現状で、大学を卒業した時点で500万円以上もの借金を抱えていて安心して暮らせる訳がありません。

また、自民党、公明党は「給付制奨学金」の創設を掲げています。 給付制奨学金については毎年のように議論されていますが、今だ、実現には至っていません。ただ、財界・政界全体が奨学ローン市場の拡大を狙っている以上は、仮に給付制奨学金が創設されたとしても、その恩恵を受けることができるのは、ほんのわずかな奨学生だけだと思います。

実は、共産党と社民党が掲げている内容が、国際基準に合った目指すべき方向なのです。 しかし、現実的には共産党、社民党の政府に対する影響力はゼロに近いので期待しても無理ですね。

各党の中で唯一目を惹いたのが、みんなの党が奨学金拡充の施策として「出世払い・返済不能型の活用等」と具体的に挙げている点です。

これは、おそらくイギリスやオーストラリアの奨学金・学費制度を参考にしていると思われますが、僕個人としても最も願っている制度です。ただし、この制度の導入にあたっては文科省だけでなく、他省庁、経済界も含めた抜本的な大学・教育改革が前提となると思われます。

もうひとつ、公明党も「返還免除による奨学金の拡充」と具体的な言葉で示している点が注目できます。

今回の衆院選を経た結果、奨学金制度がどのように変わるか、個人的な予想です。

給付制奨学金の創設 実現度50%

ただし、その規模は奨学金利用者の数パーセント(一桁)規模でお茶を濁され、奨学金問題の解決にはつながらないでしょう。ある意味、政党のパフォーマンスに利用されるだけかも。

無利子奨学金の拡大 実現度70%

現在、年間約140万人(無利子40万人、有利子100万人)が国の奨学金制度を利用していますが、高校時代の予約申し込みで無利子の奨学金に採用される確率は20%以下です。 つまり8割以上の学生は基準を満たしていながらも不採用となっているのです。
もし、無利子奨学金の採用基準を満たしている全員に奨学金を支給しようとすると3000億円以上もの税金の投入が必要となります。そう考えると、これも結果的には採用率20%以下のものが30%程度に向上する拡大が精一杯ではないでしょうか。

来年の夏には参院選が控えています。
次回こそ、返済システムの問題点に言及し、奨学金問題の本質に取り組む政策を掲げてもらえればと願っています。

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