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久米忠史のコラム

久米忠史のコラム

【vol.025】 久米忠史の奨学金コラム [2013.03.08]

奨学金の保証制度 「人的保証」「機関保証」どっちがいいのか?

アメリカでは奨学金と言えば「給付型(グラント)」のことを指します。一方、学資の貸付けは「ローン」と呼ばれ、両者は明確に区別されています。
日本学生支援機構の奨学金は貸与型の制度です。

つまり奨学金という名の「学資ローン」と考えた方がスッキリとしますね。 奨学金の借主は学生自身ですが、申請時に学生の返済能力を審査することは出来ないので、 希望者全員に支給しているのが実情です。その代り、学生が返済できなくなった場合のための保証が必要となっています。

奨学金の保証制度には2つあります。
①人的保証・・・・保護者が連帯保証、4親等以内の親族が保証
②機関保証・・・・連帯保証人、保証人は必要なく、関連保証機関が保証

日本育英会の時代は「人的保証」だけでしたが、2004年に日本学生支援機構に奨学金事業が移行されると同時に「機関保証」が導入され、現在では奨学金利用者の約半数が機関保証を利用しています。

機関保証は手間が掛かりませんが、毎月の奨学金から保証料が差し引かれます。
第二種奨学金月額12万円ならば、毎月7000円程度の保証料となるので、奨学金の手取額は11万3千円となります。
大学で4年間借りた場合の保証料を単純計算すると以下の通りです。

7000円×12か月=84000円
84000円×4年間=336000円

決して安くない金額ですよね。

僕は個別相談では、保証人をお願いできる親族が居るのなら、人的保証を選択した方がいいとアドバイスしています。 というのも、無駄なお金を使う必要はないと思うからです。 しかし、奨学生が自己破産した場合は、その後の影響が大きく異なってきます。

人的保証を選択した人が滞納すると、 「奨学生」→「連帯保証人(奨学生と同等の責任を負う)」→「保証人」の順番で返済の督促を受けることになります。
さらに奨学生が自己破産すると、その債務は連帯保証人が負うことになります。 もし保護者にも返済能力が無ければ、親子揃って自己破産してしまう可能性があるのです。

一方、機関保証の場合は、奨学生が自己破産しても保護者、親族への影響はありません。 つまり、機関保証の場合は、本人が自己破産しても30万円強のお金で保護者を守ることができるとも言えるのです。

この保証制度の難しいところは、奨学金を借りる段階でどちらかの方式を選択しなくてはならず、 しかも一度選択した保証方法を変更することが出来ないことになっている点です。
果たしてどちらを選択した方がいいのか・・・、正直悩んでいます。

奨学金の返済問題に取り組む弁護士さんなどはハッキリと機関保証を勧めています。
確かに20代前半で500万円以上もの借金を抱えているならば、 思い切って債務整理をして人生をリスタートした方がその後の人生設計に余裕が生まれるでしょうし、 自己破産しても若いうちなら社会生活に大きな影響は出ないと思います。
しかし、奨学金を借りている多くの人がそのような手段を選択してしまったら、この国がどうなってしまうのかが不安です。

現在、毎年130万人以上が日本学生支援機構奨学金を利用しており、年間の貸与総額も1兆2000億円を超えています。 大学生一人の奨学金の債務を500万円と想定して、全奨学生の30%が債務整理をするとしたら。

130万人×30%=39万人
500万円×39万人=1兆9500億円

1年間で約2兆円も!! 瞬く間に日本の奨学金(学資ローン)制度が崩壊するだけでなく、多くの国民が困り、 怒りを感じる事態に陥るのではないかと想像します。

意外に知られていないのが日本学生支援機構奨学金の財源です。 無利子の第一種奨学金には国民の税金が投入されています。
それに対して、奨学金事業の7割を占めている有利子の第二種奨学金の財源は、財投や金融機関からの借入金、 つまり市場から調達している借金なのです。

あたり前の話ですが、市民、国民が預けているお金をもとに金融機関は事業を運営しています。 もし貸し付けたお金の30%がデフォルトしたら、一体どうなるのか。
少なくともそんな相手には二度と貸しませんよね。

機関保証の場合、奨学生が返済不能に陥ると、奨学生に代わって保証機関である
日本国際教育支援協会が日本学生支援機構に返済金を肩代わりすることになっていますが、どれだけ資産を持ち、その財源がどうなっているのか、今度調べてみたいと思っています。

依頼者個人のことを守る弁護士さんの立場からすると、自己破産は有効な救済方法だと思います。
しかし、奨学生の自己破産が連鎖的に全国に広がったとしたら、善意ある多くの国民に新たな負担を強いる可能性が高いのではないでしょうか。

あくまでも僕個人の考えですが、
車内広告やテレビCMなどで、学歴や組織の規模などをひけらかして債務整理を謳っている弁護士や司法書士連中を法律家ではなく、 「法律屋」と軽蔑して見ています。
そんな輩は、新たなビジネスチャンスとして奨学金の自己破産マーケットに飛びついてくるでしょう。

ちなみに、法科大学院を卒業した司法修習生は、平均で400万円ほどの奨学金等の借金を背負っており、なかには1000万円以上の債務を抱える人もいるそう。 特に2011年に司法修習生に支払われていた給与が「給費制」から「貸与制」に移行したため、さらに借金を抱える法曹家の卵は増えていくでしょう。

ならば、新人弁護士も一旦自己破産してリスタートした方がいいのか?
実は、弁護士が自己破産すると、弁護士法の欠落事由に該当し弁護士資格が剥奪されるそうです。だから、弁護士は何が何でも自己破産ができません。

「人に自己破産を勧めて稼ぐ」→「自分の借金を返す」→「自身の自己破産を回避」
なんかこれは、かなり皮肉な構図ではないでしょうか(笑)。

奨学金の返済問題を社会問題として捉え、弱者の声に真摯に耳を傾け活動している弁護士さん達には頑張って欲しいと心から思います。 また、署名活動や個別相談など、僕個人がお手伝いできることは精一杯協力したいと思っています。
若者が安心して学び働ける社会作りを目指すことが大切です。

そういう意味では、「個の返済問題への対応」と「現行制度の問題」とを切り分けて考え、実現可能な政策提案を行っていくことがより重要な課題ではないでしょうか。
教育制度については、数々の部分で日本はアメリカの方針を倣っており、奨学金も同様です。 しかし、アメリカの学資ローン市場が崩壊寸前であることは明らかなので、早々に方向転換すべきです。

イギリスやオーストラリアのように、所得に応じた返済制度や一定期間(30年程度)過ぎると全ての債務が消滅するような仕組みをモデルにして、 日本の奨学金制度の根本的なあり方を議論する時期にきているように思います。

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