【vol.026】 久米忠史の奨学金コラム [2013.04.08]
奨学金の利用率と運転免許の取得率とを比べてみた
先日、某放送局の方から奨学金問題について電話を頂いた時、「奨学金はマイナーなテーマなので・・・」と仰っていた言葉が心に引っ掛かりました。
僕の講演に参加される保護者の大半が奨学金の仕組みや注意点が分からずに不安を抱えているということを日々実感していますが、 果たして奨学金問題は社会にとってホントにマイナーなテーマなのでしょうか。
現在、大学生の50%以上が日本学生支援機構をはじめ何らかの奨学金を利用しています。 浪人生も含めると大学進学率は50%を超えているので、全高校卒業者に占める奨学金の利用率は25%程度と考えていいでしょう。
つまり高校を卒業した4人に1人が奨学金という借金を抱えているのが現実であり、かつその比率が年々高くなっているのです。
「4人に1人」というと一見、少数派に思えますが、その影響度合いから考えると決して無視できない数字だと思っています。
イメージし易いように、運転免許の取得率をもとに奨学金制度の課題について改めて考えてみました。 ある調査によると、日本の運転免許の取得率は20.2%とのこと。奨学金の利用率よりも5%ほど低い数字ですね。
運転免許を持っている人の割合が20%程度しかないからと言って、自動車問題をマイナーなテーマとして社会から切り捨ててしまうことは出来ないはずです。
自動車は企業の経済活動や社会生活を送るために欠かすことの出来ない道具です。
非常に便利なものである一方、交通事故や渋滞、環境破壊など個人や社会に対して様々なリスクも同時にもたらします。
自動車教習所で学ぶ意義は、法律やルール、技術を習得するだけでなく、時として車が他人や自分を傷つける凶器となることを知ることにあると思います。
法を無視した飲酒運転や無免許運転など悪質な輩は懲役30年以上の厳罰に処すべきだと個人的には思っていますが、例え交通ルールを守っていても事故を起こすことはあるのです。
だからこそ、最新の知識の習得と運転する際の心構えが大切だとも言えます。
幸い自動車に関する情報は巷に溢れているので、運転免許取得後も様々な情報を得ることは難しくないでしょうし、リスクを背負った時のための保険も数多くあります。
しかし、こと奨学金に関してはどうでしょうか。
街角の書店や図書館に奨学金を解説した参考書が並んでいる訳でもなく、自動車教習所のように、手取り足取りメリットとデメリットを教えてくれる機関も存在しません。
また、僕の知る限りでは、インターネット上でも深く奨学金を掘り下げたホームページは「奨学金なるほど!相談所」以外は見当たりません(笑)。
自動車と比べてあまりにも情報格差があり過ぎるのです。
現在、多くの奨学金利用者は、高校時代に「予約採用」を申し込んでいます。
高校3年生になると、希望者には「予約採用の案内書」が配られます。
そこには、申請にあたっての細々とした内容が書かれていますが、最も重要な返済に関する情報はホンの申し訳程度しか載っていません。 したがって、ほとんどの高校生と保護者は、奨学金のメリットとデメリットをキチンと理解しないまま、奨学金を申し込んでいるのが現実でしょう。
奨学金の滞納問題が度々メディアで取り上げられていますが、その背景、原因のひとつに事前の消費者教育、借金教育の欠如にあると感じています。 自動車ローンや住宅ローンは、返済が苦しくなったら売却して債務を圧縮することができますが、奨学金は一切圧縮のできない借金です。
自動車のように他人を傷つけることはないでしょうが、自分の生活を圧迫する可能性は大いに秘めています。 万が一、返済出来なくなった時の生活への影響度を考えると、「知らなかった」「それ程とは思わなかった」では済まされない問題です。
現状の高校の仕組みを考えると一朝一夕に改善できるものではないでしょうが、少なくとも奨学金に頼らざるを得ない学生と保護者に対しては、 奨学金に関する消費者教育を早急に始めるべきだと考えています。